- EDITOR’S PICS

July 17th, 2016

香りとともに知る、「知らなかった私」。

ロンドン・バーリントンアーケードのフレグランスブティックで、好みの香調、素材を告げると、可愛らしい女性スタッフがウインクとともに、いくつかのボトルを私の前にならべる。ある冬のことである。

彼女は「サンダルウッドづかい」の「オリエンタルノート」をひとつひとつ、丁寧にゆっくりと、まるで呪文でもとなえるように、私の腕の内側、白い部分においていく。やがてそれらが乾いて肌になじむころ、彼女は私の腕をとって鼻を近づけ、それぞれがもつ芳香の個性をかぎわけはじめるのだった。
腕のうえ、ある香りが置かれた箇所で、彼女の瞳が、ああ、まるで猫のように輝いたな、と思った次の瞬間。
あなたはこれです、と目の前に置かれたボトルは、わたしの思惑とはまったく別のものだった。
おそらく体温とか、ひとが本来持っているからだのにおいとの相性から、その一本は選ばれたのだろう。
私自身が香りを選ぶ基準、それは「好きか、嫌いか」のシンプルな理由に他ならない。あえてもうひとつつけ加えるなら、その香りがもつイメージに近づきたい、というのがあるが、これもまあ、好き嫌いの範疇だろう。だから“肌に合ってるから”、さらには自分で選んだものじゃない、第三者によって選ばれた香りは、“新鮮”ということばではくくりきれない、こころ揺さぶる存在だった。
私自身も知らない“私”が、このボトルに入っているのか・・・。そう思えたら、なんだかむくむくと探究心がわいてきたので、
ではこれをくださいな、と彼女につげる。ちゃんと私らしさも発揮して、自分がひとめぼれした香りも併せて買う。パッケージがものすごく可愛い石鹸のセットもおみやげに。

マイ・香りのコレクションにくわわった、ふたつの香り。ボトルを手にとってスプレーしてみれば、鮮やかによみがえるロンドンの思い出とともに、香りとの新しい「出合いかた」の体験を思い出す。選んでもらったその香りは、これまで“私が知ってた私自身”を超えて、あたらしい世界を見せてくれた。

凝ったラベル、結ばれた小さなリボン・・・薬瓶にも似たクラッシックなそのボトルはすごく素敵。
それでも「可能性」という大いなるものを閉じ込めておくのにはこのボトル、どうやら小さすぎるようだ。