秋の始まりを告げるもの。
zhor & nema
2010-09-05 13:59


告白すると、今、甥っ子のためにセーターを編んでいる。
あなたが手編みを?!という野次馬の声のとおりだし、
手に入らないものは何もないこのご時世に、
あえて自分の手で編んでみようかという思いつき自体、
伯母の酔狂以外の何ものでもなかったりするのだが。
ボンポワンとかサエグサで過ごす時間は、
自分が一消費者として買い物を楽しめる貴重な、純粋なものだけど、
四歳の健康な男の子には、カシミヤとかスモッキング、編み上げブーツなんてことよりも、
ロゴ入りのキャップとか子供たちに大流行中のスニーカーのほうが重要で、
さらに言えば、今彼の心を奪っている、プールや蝉とりや、アクションヒーローに忙しくて、
おとなのこんな思惑などどこ吹く風、といったものなんだと思う。
それでも、いい。
彼と私のフェイバリット絵本「ちいさいおうち」をセーターに表現したいのよね。
そんな大志を抱く私に半ば呆れながらも、つき合うよ・・・と言ってくれる
プロ級の腕を持つ友人を巻き込んで、クリスマスイブには完成したいなと意気込んでいる。
実際に始めてみるとこれがまったく、進まない。
新幹線のなかを編みもの時間に決めたので、
集中できる時間は片道二時間、たっぷりあるというものの、
技術・経験・カン、すべてが不足しているために、なかなか編み針が滑り出さない。
セーターじゃなくてベストになるかもしれない、
友人が言うようにマフラーくらいが関の山か知らん・・・
折れそうになる気持ちを抱えながら、改めて店頭に並んでいるニットについて思う。
「素朴さのなかにある洗練」
「パリジェンヌならではのエスプリを表現」
「ニットながらもこんなにスタイル良く見せるシェイプ」
「驚くほどに滑らかな肌触り」
これまで自分が多くのニットに見出して、口にして来たフレーズだけれど、
実際に自分で始めてみると、これってとんでもないことだな、
と驚愕にも似た感情が生まれてくる。
一本の糸、一枚の布に、なにをどうすれば、
洗練を、エスプリを、テイストをこめられるのだろう。
ひとの心を動かすものを生むことができるのだろうか。
編んではほどき、を何度も繰り返していたらどんどん糸がやせてきて、
出来上がった部分がまだらになってしまった。
けっこうフンパツして良い糸にしたのに、全然素敵に見えないし、
滑らかな肌触り、もなにもあったもんじゃない。
もちろん、素人の手なぐさみとプロの感性を結晶させた作品を
一緒くたにするつもりは毛頭ないし、
恐れ多いことではあると重々承知しているが、あえて言ってしまえば、
自分で(少しだけ)やってみたことで、
初めて見えてきた側面というものは、かなり大きい。
「素敵に洗練された、味わい深い、エレガントなニット」を
私たちが純粋にファッションとして楽しめるのも、
デザイナーの夢や感性はもちろん、高い技術を持ったニッターやパタンナー、
多くのひとの見えない支えがあってのことです。
そしてその「思い」は、雄弁でないことのほうが多いようにわたくしには見えますが、
どの製品にも必ず、静かに息づいています。
バイケリーでご提案しているニットを始めとするおしなものは、
誰かに伝えずにはいられない、次の誰かに伝えていかずにはいられない、
ストーリーが込められたものばかりです。
久々にニットアイテムがトレンドとなったこの秋、
様々なストーリーが皆さまと出会うのを、息をひそめて待っています。
九月のバイケリーに、ぜひお出かけください。
KINUYO KAMOI
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